ウー・ウェン 料理研究家。中国・北京生まれ、42歳。北京師範大学卒業後、1990年来日。小麦粉料理の仕事が評判となり、料理研究家としてスタートする。雑誌、テレビで中国の家庭料理や生活文化の魅力を紹介。日本人の夫との間に一男一女。著書に「ウー・ウェンの北京小麦粉料理」(高橋書店)、「お茶と楽しむ ウー・ウェンさんの北京のお菓子」(NHK出版)など多数。
「『ウーさんは仕事が第二』と言われてもいい。私にとって一番大事なのは家族。家族が幸せでなくてどうして良い仕事ができるの?」とウー。北京生まれのウーが日本へやってきたのは天安門事件の翌年、1990年のことだ。ほどなくアートディレクターの日本人男性と結婚し、二人の子供を授かる。やがて自宅でもてなす家庭料理が話題となり、テレビに雑誌、講演にと少しずつ活動の場を広げてきたウーだが、意外にも結婚するまで料理はしたことがなかったと言う。
「主婦であり母である以上、やはり家族に対しては責任がある。愛する夫や子供たちが元気に過ごせるよう、健康の管理をするのが私の仕事。子供たちの成長に合わせて自然と作る料理も変わってくるものだし、毎日が勉強の連続だった。それに『今日もおいしかった。ごちそうさま』の言葉を聞くと、その気持ちだけで『こちらこそ、ごちそうさま』と思えるものなのよ」。ウーにとって、食卓はまさに家族のつながりであり、明日の仕事への活力を与えてくれるものに他ならない。
仕事のベースは、自宅で開いているクッキングサロンだ。常々口にするのは家庭料理に必要なのは、腕ではなくて知恵だと言うこと。「旬の食材を上手に取り入れて、家族の体調にあわせた、愛情いっぱいの料理を出して欲しい。家庭の料理って実はおいしいクスリなのよ」。冗談でよく言うのだけど、とウーは付け加える。「中国には13億人の医者がいる。例えば風邪のひきはじめには金柑のお茶を飲もうとか、乾燥する冬場にはビタミンの多い白菜や大根を食べようとか、正しいか正しくないか別として、みなそれぞれ健康と料理について自分なりの一言があるの」。ウー自身が母親から受け継いだそうした教えを直に伝えたい、だからこそ相手の顔の見えるサロンにこだわり続けていると言う。
20代半ばを過ぎて来日。自らの生きる道を探し求めてきたウーが見つけたのは、料理で日本と中国をつなぐことだった。「歴史や文化のある国、中国のことをもっと知って欲しい。政治や経済の事は分からないけど、おいしいご飯を前に、怒る人はいないでしょう?食卓から、何か始められるかも知れない」。先日、北京の大学生を前に日本文化について話をした際のこと、中国の若者からは「お寿司はどうやって食べるのか」「すきやきはどうしてあんなに甘いのか」などの質問が飛び出したと言う。今後は、中国でも食を通じて日本の文化を紹介していくつもりだ。活躍の場はますます広がっていく。(文責:日中メディア研究会 一之瀬恵)
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