漢俳(中国語俳句)学会の創立大会が23日午前10時、中国人民対外友好協会で行なわれました。
丁偉文化相補佐、劉徳有元文化省次官と日本駐中国大使館の井出敬二公使、日本現代俳句協会の金子兜太名誉会長及び中日両国の俳句協会の関係者100人がこの式典に参加しました。
1980年、日本俳句訪中団が中国の詩人や学者と交流したことをきっかけに、趙朴初や鐘敬文などの学者の提唱で、漢字で俳句を読むという新しい詩歌の形式が考案されました。
この20年来、中日文化交流に伴い、中国で漢俳を愛好する人たちがますます増え、現在、湖南省の長沙市で国内初めての漢俳専門雑誌「漢俳詩人」が発行されています。今回の漢俳学会の創立は、日本の俳句界と新たな交流ルートを設けたことになり、中日両国の文化交流の深まりに大きくプラスとなるとされています。
春 吟 (東京都 石塚梨雲)
吟行結浄縁。 春光映水早梅妍, 風和二月天。 |
吟行 浄縁を結ぶ。 春光 水に映じて 早梅妍に, 風は和らぐ 二月の天。 |
魯迅碑 (東京都 門馬清明)
仙台疎林下, 寒樹獨站魯迅碑。 飛鶸一影低。 |
千台 疎林の下, 寒樹 獨リ站む魯迅の碑。 飛鶸 一影低し。 |
春日山行 (埼玉県 芋川冬扇)
春光対花催。 行人欲帰先拝佛, 古木開白梅。 |
春光 花に対して催す。 行人帰らんと欲して 先づ佛を拝し, 古木 白梅を開く。 |
漢俳学会の林林名誉会長、劉徳有会長、袁鷹と屠岸副会長の4人の先生方の作品を一首づつ観賞してみましょう。
牡 丹 (林林)
胆識冠群芳 因抗女皇貶洛陽 國色更増光 |
胆識 群芳に冠たり 女皇に抗いしに因って洛陽に貶しむ 國色 更に光を増す |
伝説によると武則天は、冬に詔して百花に盛んに開けと命したという。牡丹だけがこれに従わなかったので、洛陽に落とされた。けれども牡丹は腹の中で群芳に冠たることを知っている。却ってこれで光を増したと作者はいうのである。巧みに寓話を用いた傑作。
春夜抵大阪 (劉徳有)
城楼逐月高。 近水悠悠遠景揺, 尋来八百橋。 |
城楼 月を逐いて高し。 近水は悠々 遠景は揺れ, 尋ね来れり、八百橋。 |
嘗て「水の都」と称された大阪には八百八の橋があった。歌謡『王将』の世界だ。戦後の車社会の中で、多くの堀川は埋め立てられて道路にされた。最近はそれでも残った水辺をライトアップして、水の都の夜景をクルーズアップしている。大阪城が聳えている天満橋界隈の風情であろうか。
京都春雨 (袁鷹)京都の春の雨
昨夜雨蕭蕭, 夢繞櫻花第幾橋? 未知帰路遥。 |
昨夜 雨は蕭蕭, 夢は繞る 櫻花の第幾橋? 未だ知らず 帰路の遥かなるを。 |
「花の雨」という季語があるが、花の夜を降る雨は情緒纏綿である。京都の宿で床についてみたが、昼間みた鴨川べりの花の景色が、夢の中で繰り広げられて追って来る。五条、四条、三条と、もういくつの橋を辿ったことであろうか?宿へ帰るのも忘れてしまう。情感の籠もった作品。
画師 (屠岸)
画室満春風, 筆下桃花萬朶紅, 身在彩雲中 |
画室 春風に満ち 筆を桃花に下せば 萬朶の紅 身は彩雲に中に在り。 |
桃の花の紅を描いているうちに画家自身が彩雲に中にいる。制作没入の境地。紅は画家の心を一層燃え立たせる。屠岸先生はソネットの研究家でもある。ルノアールに学んだ日本の梅原龍三郎も紅色を好んだ。深海から釣り上げた鯛の朱肌を、更に赤絵の皿に盛って描いていた。もう部屋中真っ赤っ赤である。画室は春風いっぱい。
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