北京で今、一番「話題の場所」というと、恐らく一番に上がるのが、ここだろうと思う。いや、ここは何の変哲もないカフェショップ。しかも、日本でもお馴染みのお店であり、商品も別に代わり映えしない。問題はそのカフェショップがある「場所」である。
ここは、北京に来た人誰もが必ず訪れるという世界で最も有名な観光地の一つ・・・故宮、またの名を紫禁城。毛沢東の肖像画がかかる天安門をくぐって、かつて中国全土を支配した巨大な権力が居をおいた大宮殿を散策する・・・そこは、一日かけても回りきれないほどの大空間が広がっている。
この「話題の店」があるのは、入場料40元(約600円、07年2月現在)を払って、入場し、いくつかの門をくぐった脇のところである。「外宮」皇帝が政務を行なう"外に開かれた場所"と「内廷」皇帝やその家族の住まいのある部分をつなぐ「乾清門」の南東側。そこにあるのは、珈琲ショップ「スターバックス」である。
スターバックスならどこにでもある・・などと言うなかれ。実は、この店の存在が今、議論好きの北京っこたちの焦点となっているのだ。
発端となったのは、去年、インターネット上に掲載された「スターバックスよ、故宮を去れ」と題した論文。このページがわずかな時間で50万アクセスを記録するなど、大きな反響を呼んだ。
その是非を巡って、今、北京では喧々諤々の議論が展開されているのだ。
"スタバ"反対派は、「中国文化の源流ともいえる故宮に、西洋文化の象徴ともいえるカフェがあるなどともってのほか」という。一方、賛成派は「広い故宮散策で、珈琲を飲んでほっと一息つける場所があってもいいはず」と主張する。この店の存在は今、北京市民の関心の的となっているのだ。
そのお店に行ってみた。実は、現地の係員に何度も尋ねて、ようやく辿り着いた次第。そう・・・全く「目立たない」のだ。案内標識が一つだけ立っており、そこには「珈琲店」と矢印があるのみ。そして、その店の姿はというと、故宮の他の建物と全く同じく、中国独特の紅色で塗られていて、またお馴染みの看板も全く見当たらない。
実はこのお店、すでに2000年に開業しており、もう7年目。開店当初に同じような批判が出て、店の特徴を感じさせる看板や表示を全て取り外してしまったそうだ。
だが、いたって目立たない店作りにも関わらず、中は満杯。椅子に座りきれない人はやむを得ず、外に出て、店の前の石段に腰をかけて、コーヒーをすすっている。欧米の観光客もいるが、中国人客がほとんど。また話題になっている店だからか、店をバックに記念写真を撮る人もいる。大いに賑わっている、というわけだ。あのお馴染みの紙コップを手に、珈琲を飲みながら、敷地内の宮殿をまわる観光客の姿も多く見られる。
このスターバックスの今後については、今のところ検討中とされている。色々な意味で、今話題のお店、スターバックス"故宮店"。さあ、皆さんは、これをどう感じるだろうか。
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