「日本のお年寄りが五輪の野球スタジアムの外で3日間座り込むが、チケットまだ入手できず」。8月13日の『北京晩報』に載ったこの記事は、すぐに市民の注目を集めました。新聞の28面と目立たないところに載った小さな記事でしたが、翌日、『北京晩報』のオフィスにはこの見ず知らずのお年寄りに自分のチケットを譲りたいという電話が殺到。『北京晩報』が当日の夕方「日本のお年寄り、念願のチケット入手」と続報が出るまで、新聞社では電話の応対に落ち着く暇もありませんでした。
この報道で一躍有名になったのが、ごく普通の観光客である森田寔史さん。森田さんは中国語の勉強と野球観戦が大好きで、たった一人で九州から野球・日本代表の応援に北京を訪れました。ところが、チケットを事前に購入していなかったためスタジアムの外で誰かに譲ってもらえないか聞き回ることに。大声を出し、片言の中国語で「有人退票嘛?(チケットをキャンセルする人はいませんか?)」と道行く人に尋ねていたところ、会場で働く女子大生の五輪ボランティアに声を掛けられました。大学生ボランティアたちは森田さんが3日間連続で会場に来ていることを知り、チケット探しを手伝おうと地元の新聞社へ投稿しました。
その後、森田さんのもとを記者が訪ねたのですが、なんと本人はちょうど新聞に載った当日に自力でチケットを入手出来たので、自分のチケット購入にこれだけの人が動いていたことを、取材されるまでまったく知らなかったのです。事情を聞いた森田さんは、「あの子たちに本当に感謝しています。北京の五輪はなんて暖かいんだろう」と目をうるませていました。
森田さんが観戦した野球試合は中華・台北対日本。感想を聞いたところ、「試合の結果より、途中日本が3ー0で負けていたときに多くの中国人の観客が日本側の応援に回ってくれたことに感動した。隣に座っていた6歳の中国の女の子が喉が枯れるくらい大きな声で日本を応援してくれた姿が可愛かった」と答えました。(文:黄恂恂)
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