イラクのルバイエ国家安全保障担当顧問は、メディアに対して、「イラク政府関係者、宗教関係者、弁護士と一緒に死刑執行に立ち会った。処刑はスムーズに行われた」と述べたほか、「腹違いの兄弟・バルザン・イブラヒム被告と元革命裁判長のアワド・ハミド・バンダル被告の死刑執行は犠牲祭のあとに行う」ことを明らかにしました。

　死刑執行にあたり、バグダッドでは全面的な警戒態勢が敷かれ、往来する人々の姿もありませんでした。フセイン元大統領の故郷、ティクリートでは、当日の午前5時から丸4日間にわたる厳戒態勢となります。

　2003年3月、アメリカとイギリスは、大量破壊兵器の所有とイラク戦争の発動を理由に、フセイン政権を崩壊に追い込みました。また、12月13日には、アメリカ軍が、フセイン元大統領を逮捕しました。2005年10月19日、イラク特別法廷で、イラク中部ドゥジャイルのイスラム教シーア派住民148人を殺害したことに関して、フセイン元大統領の初公判を行われました。公判は40回にも及び、最終的に「人道に対する罪」が確定され、絞首刑による死刑が求刑されました。その後、フセイン元大統領は上訴しましたが、上訴裁判所はこれを却下しました。

　このフセイン元大統領に関する裁判の公正性と合法性についてはずっと疑問視されてきました。アメリカと、シーア派が指導しているイラク政府が審判を左右しているとされ、国際社会でも、フセインの処罰について、異議の声が上がっています。しかし、イラク政府のマリキ首相は、29日、フセイン元大統領の判決と死刑執行については再検討を行わないと述べました。また、マリキ首相は同日、フセイン政権の被害者遺族に面会し、死刑執行に反対することは被害者を侮辱することと同じだ」と明言しました。

　また、アメリカのブッシュ大統領は、フセイン元大統領の死刑が行われたことを受けて、テキサス州で演説を行い、「フセインの処刑は、イラクの民主化プロセスにおける一里塚的な出来事だ」と話しましたが、フセインが処刑されても、イラク国内の暴力活動を阻止することにはならないとも語りました。また、ブッシュ大統領は、「アメリカ軍は、イラクで困難に直面しているが、発足したばかりのイラク民主政府を支援する」と語りました。

　専門家は、フセイン元大統領を処刑することは、スンニ派を刺激するだけでなく、クルド人にも不満を与えるのではと分析しています。スンニ派は、以前から判決結果に不満の意を表しており、一部の武装グループは、フセインが処刑されれば暴力活動に踏み出すと明言しました。また、死刑執行に反対する国際人士は、処罰はイラクの平和プロセスを妨げ、スンニ派とシーア派の対立を激化させると同時に、イラクが更に混乱に陥り、内戦勃発の恐れもあるとの懸念を示しています。