今年2月14日、レバノンのハリリ元首相は首都のベイルートで自動車爆弾に遭い、死亡しました。この事件をめぐって、4月に国連安保理が採択した決議により、ドイツ人のメフリス氏をはじめとする独立調査委員会が6月中旬から暗殺事件への調査を始めました。そして、10月に調査期限を12月15日までに延期すると決められました。

　暗殺事件に関与したとされるシリア政府当局者5人は、5日から調査委員会の尋問をうけますが、シリア政府と調査委員会が達成した合意によりますと、シリア政府当局者は弁護士と共にウィーンに行き、事情聴取後、直接シリアに戻れるということです。

　今回の聴取は、国連独立調査委員会とシリア政府が協議して決めたものですが、事件に関わった重要な証人は、先月の末、威嚇され、賄賂で買収され、シリアに不利な偽証をしたことを認めました。そのため、メフリス委員長が10月に国連に提出した調査報告の信憑性が問われ、シリアは、調査委員会の調査結果を改めて評価するよう求めました。もともと進展が難しい調査には更に大きな困難が現れ、メフリス委員長が留任するかどうかが、焦点となりました。

　ドイツメディアは3日、国連の消息筋の話を引用した報道によれば、メフリス委員長は、アナン事務総長に辞職願いを提出し、受け入れられたそうです。辞職の原因について、メフリス委員長は、来年、ドイツ検察総長に任命されるという個人的な理由を取り上げています。

　メフリス委員長の辞職をめぐって、各側の反応はそれぞれあります。レバノンのセニョーラ首相は3日夜、アナン事務総長宛てに電話をかけ、ハリリ元首相暗殺事件の調査活動が終るまでメフリス氏が独立調査委員会の委員長を担当することを希望する、というレバノン政府の立場を表明しました。セニョーラ首相はまた、調査活動を更に6ヵ月延ばし、必要に応じて再度の延期を提案しました。また、アメリカのボルトン国連大使は、シリアが調査委員会指導者の更迭を理由に、委員会との全面的な協力を中止することを防ぐため、メフリス委員長の留任を説得するようアナン事務総長に求めています。一方、シリアは、一貫した立場を改めて強調しています。つまり、シリアは、メフリス委員長に対して敵意を持っておらず、だれかが国連独立調査委員会を率いて調査活動を行うかにも関心を持っていません。もっとも重要なのは、調査を政治的な目的にしないで、その信憑性と専門性に徹することだとのことです。シリアのダフララ情報相は、シリアはハリリ元首相の暗殺事件に関与していないと強調し、引き続き調査委員会と協力していく姿勢を示しました。また、ドイツ政府は、「メフリス委員長が調査中で取った方式とメカニズムは、普通の軌道から離れている。その行動は、ドイツの中東における利益を損なった」と指摘しています。

　今月15日、メフリス氏は国連に最終的な調査結果報告を提出する予定ですが、確実な証拠がないということで、懸念されています。世論は、「だれかが調査委員会の委員長を担当するにしても、調査活動は、最初からやり直さなければならない」と見ています。