イラクのフセイン元大統領は19日、バグダッドで開かれたイラク特別法廷の公判に出廷し、また合わせて7人のフセイン政権の旧幹部も出廷しました。これはアメリカがイラク戦争を発動し、フセイン政権を転覆させた後、フセイン元大統領らの旧政権幹部に対する初の公判となります。

　クルド人のマハメド・アミン氏はこの公判の裁判長を担当します。公判開始直後、フセイン元大統領はまず、法廷の合法性について質疑を行い、「憲法で保障されるイラク大統領としての権利を保有している」とした上で、「この法廷は私を裁く権利がない」と主張しました。つづいて、アミン裁判長はフセイン元大統領ら8人の被告への起訴状を読み上げました。起訴状では「フセイン元大統領と他の7人の被告は1982年のドジャイル虐殺事件に関与し、村民143人を殺害した」としました。原告と被告双方がそれぞれ自分の言い分を主張したことから、裁判長は「公判を40日間延期し、来月28日に再開する」と言い渡しました。

　イラクのテレビ局は当日、公判のダイジェストを放送しました。今回の公判についてイラク人は異なる反応を示しています。フセイン政権時代に弾圧されたシーア派とクルド人はいずれもフセインへの公判を支持し、フセイン元大統領の死刑を主張しています。しかし、多くのスンニ派の人々は「この公判はシーア派が主導する暫定政府がスンニ派に報復するもので、駐留する外国軍隊への襲撃がもっと頻繁になるだけだ」と懸念しています。

　この公判に対し、アラブ諸国の反応も異なっています。クウェート人は「フセイン元大統領はイラクのクウェートへの侵略行為に責任を負うべきだ」と見ています。一方、パレスチナでは「今回の公判はアメリカに操られたものだ。もし、フセイン氏が殺人罪に問われるとしたら、アメリカ軍のイラクでの行為はどうなるのか」という考えを持つ人がかなり多く見られます。サウジアラビアのマスコミは「フセインへの公判はすでに意味がなくなった。今のイラクでは依然として血が流れているからだ」としました。

　イラク特別法廷はこのほど、ドジャイル虐殺事件をフセイン元大統領の最初の罪状としたのは、この事件の証拠が確かで、審理しやすいからだと明らかにしました。しかし専門家は、フセイン元大統領への裁判はまだ長い時間を要するとした上で、次の理由を挙げました。

　まず、特別法廷の法的地位と合法性が挙げられます。次に、フセイン元大統領は外国軍隊がイラクを占領する前、イラクの合法的な大統領だったという事実です。当時のイラクの法律によりますと、フセイン元大統領らを被告とする訴訟は成り立ちません。このため、ドジャイル虐殺事件の審理はそれほど容易ではありません。また、フセイン元大統領の弁護士は法廷で証人の名前を明らかにするよう要求しましたが、証人の安全を考慮して法廷は答えませんでした。この点も来月、裁判が再開された際、論議の焦点となると見られています。