第4回 葡萄鎮の「晩鐘」  

 桂林から車で5時間ほどの「葡萄鎮」は私が大好きな場所で、何度も訪れたことがあります。

 最初は、いつも通りの運転手さん任せのドライブでした。夕方が近づくと、突然、私の目の前に舞台が出現しました。夕日に照らされ、山を背に、水牛をつないで家路を急ぐ農民の姿は、まるで中国版ミレーの「晩鐘」のようでした。平和な一日の農作業が終わって、その一日に感謝しながら我が家へ向かう…

 「朝は希望に起き、夜は感謝に眠る」

 この言葉を風景にして表してくれたような情景でした。

 あまりの美しさに心が奪われ、翌日も同じ時間帯、同じ場所で撮影することにしました。その日は、車で2時間ほどの陽朔で宿を取っていました。

 翌日もまた2時間車に乗ってやってきました。ところが、同じ時間帯に同じ場所で待っていたのに、農夫と牛は考えもしなかった後ろの道を通っているではありませんか。その道では背景に山がないので、雰囲気が全然違い絵にはなりません。

 これだと一日棒に振ることになる。通訳さんが気を利かせて、「農民に話して、昨日と同じ道をもう一度歩いてもらいましょうか」と言ってくれました。でも、それでは作られた風景になってしまいます。私はそうして作られた風景よりも、自然にできあがった風景を撮りたいので、翌日また来ようと決めました。

 三日目、同じ場所で同じ時間帯にカメラを構えて待っていました。その時に撮れたのがこの一枚でした。お蔭で、たいへん思い出に残る写真になりました。

 葡萄鎮はこうして、私にとって名画のイメージの場所になり、その後も何度も行っています。後から振り返ってみると、一枚の写真にかけた苦労が多かったとも言えますが、しかし、撮影している時は苦労を苦労と思ったことはありません。何よりも良いチャンスをつかまえたい、失敗しても行く、何回も行ってトライしたい、何故なら、そうして初めて満ち足りた作品を手に入れることができるからです。


桂林郊外、山麓下の畠に向かう農夫(2003年10月 広西チワン族自治州桂林)


桂林郊外で出会ったワンシーン(2003年10月 広西チワン族自治州桂林)


一日の農作業を終え一路家路につく夕暮れのひととき(2003年10月 広西チワン族自治州桂林)


朝の餌やりを終えこれから耕す畑に(2003年10月 広西チワン族自治州桂林)