第1回 中国の農山村に誘われて
「朝は希望に起き、夜は感謝に眠る」
私の大好きな言葉です。いさかいがなく、平和な毎日。太陽が出たら働き、沈んだら帰る。これは、中国にも日本にも共通して言えることで、基本的には平和な農村をイメージしています。
平凡ではありますが、一番人間に幸せを感じさせるところ、それが山里です。
私は構図を考える時、画面に山がないと雰囲気が盛り上がらず、殺風景に感じます。それで、若い時から山里で写真を撮るのが好きでした。今から40年あまり前、撮影でたまたま通ったところが、私のイメージした山里とぴったり合っていました(京都府北桑田美山町)。当時はかやぶきの民家がまだたくさん残っているところでした。
日本の山里の象徴的な素材がかやぶきの民家です。民話にも必ずその美しい姿が登場しますが、夕暮れ時、ご飯を炊くかまどの煙がたちのぼり、夜のとばりが下りると障子に明かりが灯り、本当に落ち着く日本の原風景です。しかし、残念ながら、そういう日本的風情は今はもうほとんど消えてしまいました。
翻って中国の農山村はどうでしょうか。実は、かやぶきの山里の風景が日本で見えなくなった頃から、私は中国の農山村に目を向け始めました。日本にはもうないものがまだ中国にあると信じていたからです。
しかし、現実には、激しく移り変わる中国の変化と共に、中国の農山村も日本の後を追うように、コンクリート造りの白い家がどんどん建てられ、車はあるし、アンテナはあるしで、それらがちょっとでも画面に入るとイメージが狂ってしまいます。
日本の山里に共通する中国の農山村の原風景もやがては消滅してしまうのが目に見えています。そうなる前に、たとえ残影としてでも誰かがこれを残す責務を日に日に感じています。これこそ、私が2000年から中国の内陸部に入って撮影を続けてきた理由でもあります。
「朝は希望に起き、夜は感謝に眠る」というイメージで、誰もがきっと心に残る懐かしい故郷の姿を記録しておきたいと考えています。
山に囲まれた湖水付近のワンカット(2006年10月 浙江省慶元)
田植えに備えて春日和(2006年10月 江西省婺源)