「春運」は、中国で旧正月の頃に交通量が非常に多くなる現象で、一般に旧正月の15日前から約40日間続きます。分かりやすく言えば、規模のとてつもなく大きな「帰省ラッシュ」です。この40日間に、20億人以上の人口流動があり、世界人口の3分の1を占めます。それゆえ、春運は史上最大規模の周期的な人類移動現象とも呼ばれています。
故郷を離れ、北京に住むようになってからもう6年が経ちますが、私もご多分に洩れず、毎年、春節の前になると、必ず故郷に帰ります。ですので、私も春運というものの怖さを肌身に感じています。まずは、帰省列車の切符の購入は普段より何倍も困難になります。やっとのことで切符を手に入れたとして、安心はできません。列車に乗ると、いつもはわりと空いている車内が超満員になります。通路まで乗客で埋め尽くされ、移動すら儘ならない状態です。
しかし、このような苦しみを味わうことを知っていながら、中国人がどうしてもこの時期に帰省しようとするのは、なぜなのでしょうか。
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それは、中国数千年の文化において、「家」が常に重要な概念だからです。家は血縁や肉親の情などで結ばれた人々が集まり、生活を営むところですが、中国人にとっては、それだけに留まりません。約三千年前の中国周王朝で、聖人と呼ばれた周公旦は「天下を以って家となす」という考えを唱えました。それは、国も一つの大家族であり、皇帝や各官吏は天下や自分が管轄する範囲を自分の家として捉え、治めるべきだとする考え方です。そして、二千年前の漢王朝に興り、今まで強い影響力を持ち続けてきた儒家思想は、「徳」で他人を感化し、徳を重点として人々を教育すべきことを説きました。家や家族などの倫理観念こそ、この「徳」を重んじる教育の重要な一環であったわけです。このように、中国人の「家」を重視する考えは儒家教育の広まりを背景に、深く根ざすことになりました。
中国で最も重要な祝日である春節は、「家」を重視する中国人から見れば、家族と一緒に過ごすことが不可欠となります。だからこそ、遠く離れていようと、どんな困難があろうと、必ず「家」に帰り、家族と一緒に春節を過ごそうとするわけです。交通の発達した現代社会では、地域間の人口流動が頻繁に起こります。「春運」はそのなかで生み出された中国特有の社会現象です。この社会現象からも、中国人にとっての春節の重要さも伺えるのではないでしょうか。(文責:牟牮) |