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しとしとと雨が降り始めた。私はいつものように本屋に向かっていた。
本屋のおばさんは店先に並んでいる本を急いでお店の中にしまっていた。私はみかねて直ぐに手を貸した。おばさんは何も言わず微笑み、続けて大切な本を店の中に運んだ。全て店の中に入れた時には、もう土砂降りになっていた。その時、私の心臓も、雨のように激しくなっていた。急いで本を運んだからではなく、運んだ本の中にたくさんの日本語の本があったからだ。
私が「すごいコレクションだ」と興奮しているところに、おばさんが寄ってきて、本の紹介をしてくれた。
「日本語の本はたくさんあるけど、翻訳されている本は少ないわ。だから私はあまり理解できないけど、これらの本を見ているだけで楽しいの。」
私はおばさんが本を見て日本を理解しようとしていることがわかった。
「翻訳を待っているの。」
とおばさんはつぶやいた。私は彼女の言葉に吸い込まれた。
私は、日本語を勉強し始めてから、中日関係について考えるようになり、よくこの本屋に通っていた。
「中国と日本の関係は他の国との関係とは違うと思うの。難しい事はわからないけど、こんなにたくさんの日本語の本がここにあることが証明してくれてるわ。」
「私もそう思います。でも、今の中国と日本の関係はあまりうまくいっていないと思います。」
「どうしてそう思うの。」
「私も友達もみんな日本のことが大好きなんですが、国と国で考えると、どうしても歴史や経済の問題がとりあげられ...。」
おばさんは私の答えを待っていたかのように一冊の本を私に差し出した。『上海图书馆馆藏旧版日文文献总目』という文字が見え、手に持つとその重さは、想像以上だった。内容は戦前から近現代日本人居留民史までが含まれており、中日関係を相互の国家の視点でうまくまとめてあった。おばさんが「一九七二年後、翻訳作品は増えたけど、この本のように整理され事実を伝えたものは、まだ少ないわ。」
そして「止まっているような、動いているような、時間の流れ。これが中日関係ね。でも決して止まっていないわ。」と言った。
「はい、わたしもそう思います。」
そう答えた私は、おばさんの話に感動した。
おばさんは続けて、「中日の未来にあなたができることは何ですか。」と質問した。私はとっさに「翻訳です。」と答えた。おばさんは、声を出して笑った。
私は笑われて恥ずかしくなったが、とっさに口から出た自分がやりたい事に気づき、恥ずかしさは消え、得意な気持ちになった。そして、こんな身近なところに私を理解してくれる人がいたことの嬉しさも相まって、おばさんと一緒に声を出して笑った。
「私は日本の大学へ行きます。一生懸命に努力していつか翻訳者になって、おばさんの店にあるこれらの本を一冊一冊ずつ訳していきます。」
おばさんは微笑みながら、「そうですか。じゃ、新たな生活が始まるのですね。期待しているわ。」と言った。
「期待」と聞いて、どきっとした。中日の架け橋の一つになるであろうというそれぞれの本、それらを翻訳する気持ちはあるけれど、どこまでできるかはわからない。期待されてうれしいが、急になんらかの責任を感じるようにもなった。本を読むのが好きで、趣味で中日の好きな本を翻訳してみようと思っていたが、翻訳した本が読まれる、また海の向こうにある隣国の人々のことを知りたいという人たちに期待されるだろうと思うと、どうも趣味だけでは読んでくれる人、特に期待してくれる人には済まない気がしてしまう。中日翻訳の力を育てていこうと、心の底でひそかに誓った。
そうか、翻訳してほしいと期待している人たちがいたんだ。知りたいから翻訳を期待しているに違いない。知って、そして相手の気持ちを理解し始める。理解し合ってこそ、中日関係も期待できるのではないであろうか。
「おばさん、少々お待ちください!」と心の中で、私はそう決意した。
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