写真3
写真をもらった数週間後に、楊君がぼくの家に遊びに来た。爽やかな秋晴れの日だった。一緒に上述の西太后が船で頤和園に向った川の畔に散歩に出掛けた。帰り道に青竜橋小学の前を通る。校内から若い女性教師の「12345678・22345678」という明るい声が流れてきた。楊君が言った。
「中国の大石先生だな」と。
楊君とぼくは、もう六十年近く前の一九五六年に、北京をはじめ中国の十大都市で開かれた「日本映画週間」で上映された『二十四の瞳』という日本映画を観ているのだ。高峰秀子さんの演じる小学の若い女教師大石先生、子供たちが命を大切にする平和を愛する人間に育って欲しいとひたすら願い全身全霊を傾ける大石先生、スクリーンに映しだされるその姿に、楊君も、ぼくも涙を流した記憶があるのだ。二人は、あの映画の心を打つシーンを思い出し、語り合いながら散歩の足を運んだ。
ぼくは、しばらく前の『朝日新聞』でみたこの映画の監督木下恵介さんが語った次のようなことばを楊君に話した。「最近また軍拡がすすめられるなど、おかしな世の中になってきた。しかし、いまの日本の庶民一人ひとりが、大石先生のようなしっかりした生き方をつかんでいれば、日本がふたたび戦争の道に走るのを許さないだろう。」
楊君は足を止め大きく頷いた。楊君もぼくもそう思い、そう願うのだった。
青竜橋小学校の校門の傍らには、秋の陽に照らされて、校是というのか、校訓というのか、下の写真のような数文字が訳されていた。わきに日本語訳を添えておく。
どの子もみんな楽しく健やかに育って欲しい
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