しかし、平成が真に平成であるためには、昭和の戦争の歴史の教訓をしっかりと胸に刻んでいくこと、この問題にはっきりとした「KEJIME」をつける努力をしていくことが必要ではないでしょうか。中国には「反面教員」ということばがあります。逆の面から民衆を教育してくれる人物或いは事件のことです。あの戦争の歴史は、昭和の日本の歴史のなかで、いちばん教訓に富んだ「反面教員」だと思います。中国には、こんなことばもあります。「前事不忘、後事之師」(前のことを忘れることなく、後の戒めとする)ということばです。中国の民衆が過去のあの戦争について触れるのは、まったくこのことばの通りで、過去の歴史から教訓を汲み取り、ふたたびああした戦争を繰り返させないためで、こうして守られた平和・友好が中日両国の民衆をもふくめたアジアの、世界の人たちの幸福にとって、とても大切だからです。過去に目を閉じていては、過去に「KEJIME」をつけないでいては、こうした教訓は汲みとれないのではないでしょうか。
大喪の礼から半年、一九八九年の八月十五日、日本では「終戦記念日」と呼んでいますが、この前後にも、あの戦争の教訓、とりわけ日本の加害者としての歴史の教訓については、あまり取りあげられませんでした。昭和から平成へ―元号が変ったというので、このことがさらに遠くに押しやられてしまったような感じさえしました。わたしの不安は、さらにつのるでした。でも、こうしたわたしを慰めてくれるものもありました。八月十五日前後の日本の新聞の投書欄に載った若い世代からの投書です。
東京の高校生、十七歳の伊東早苗さんは「テレビで西ドイツがナチスの犯罪にたいし時効を廃止して徹底的にその責任を追及しているのを知った。『大切なのは過去に正直になることだ』という言葉は、日本人も見習うべきだ」と書いていました。
東京の大学院生、二十四歳の三浦敏樹さんは「『すでに四十四年も経ている』とか、『幾人かの戦犯が裁かれている』とか……、これで戦争にたいする『KEJIME』がついたといえるのだろうか。……戦犯を合祀した神社に閣僚が公式参拝したり、教科書から日本軍の残虐行為を抹消したりする問題が問われなければなるまい」と述べています。
三重県の会社員、今年二十六歳の島村徹さんは「日本の侵略によって死傷した中国人民は数千万人と伝えられる……。これらの事実を覆い隠そうとする姿勢は間違っている。日本による『加害』の事実も知らされるべきだ」と訴えていました。
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