日本人俳優・矢野浩二さんは中国語による自叙伝『夢さえあれば遥かな道のりも怖くない』（原題：《有梦不怕路远》）の出版を記念して、29日夜、大学生との交流会を北京師範大学で開きました。外国人訛りがあるものの、ユーモアたっぷりの「浩二節」により、交流会は終始笑いに溢れていました。

　矢野さんが中国に来たばかりのころ、親身になって助けてくれた中国人の親友で、現在は大学で日本語教師をしている徐超さんが途中から登壇し、長年の付き合いがうかがえる二人の対話は自然と漫才コンビのようなボケとツッコミになり、会場はお笑いのステージのようになりました。さらにその場で出された学生の質問に答えるだけではなく、「20歳にもなるのに、まだ恋人もいない」という学生司会者に対し真顔になって「叱咤、指導」し、会場を笑いの渦に巻き込みました。

　矢野さんは大阪出身。東京で俳優活動を経て、所属事務所の紹介で中国の恋愛ドラマ「永遠の恋人」の出演のため初訪中。それをきっかけにして、翌年に活動の拠点を東京から北京に移し、現在に至ります。来た当初、言葉も分からず、仕事のチャンスにも恵まれず、生活に困っていた時期もありましたが、知人の紹介で連続ドラマ「走向共和」（2003年放映）で明治天皇、「記憶の証明」（2002年放映）で日本に強制連行された中国人を監視する日本軍将校を演じたことを皮切りに、相次いで軍人役の出演依頼が入りました。戦後60年にあたる2005年は、「テレビをつければ、なんと私が日本軍を演じたドラマ5作品が17のチャンネルで同時放映していた。これには自分もたまげた」と今では笑いながら振り返っていました。

　中国で俳優としての名が知られていくにつれ、湖南衛星テレビの人気バラエティ番組「天天向上」から招かれ、レギュラーとして5年間も出演。たどたどしい中国語ではありましたが、小憎たらしい行動で笑いがとれるという矢野浩二の新しい一面を多くの若者に伝えることができました。その後、「浩二」の名として知られ、「野草」と自称するファンを多くゲットしました。4年前、重慶生まれの中国人妻との間に、長女が生まれ、「重慶の婿さん」としても親しまれています。

　ところで、長く中国を拠点に活躍してきた矢野さんは最近では、12月22日にフジテレビで放送されたドラマ『黒蜥蜴』（くろとかげ）で磯沼刑事役を演じ、日本国内でも活動の幅を広げつつあります。演劇分野や中日交流に対する貢献が評価され、今年8月、矢野さんは日本の外務省より「2015年度外務大臣表彰」を受賞しました。

　交流会当日、数百人を収容できる会場は席がすべて埋まり、熱気に包まれた中で交流が行われました。

　「気さくな上、お笑いのセンスに富んでいるので、浩二さんが大好き」

　「小学校の時から、『天天向上』をずっと見てきたが、浩二さんは悪知恵が良く働く人だという印象が強かったが、本人から直接話を聞いて、実は心優しい一面もあることを知ったので嬉しい」

　参加者たちはみんな満足げな顔で会場を後にしました。ただ、「日本文化のことについて、浩二さんにもっと紹介してほしかったのに」という意見もあり、日本についてさらに知りたいと感じた参加者もいました。

　一方で留学生の姿もありました。日本から同大学へ交換留学に来た田口さんは、「日本に伝わっている矢野さんとは全然違うイメージだった。中国語を使って中国人の笑いが取れるところはとても魅力的だ。自分もあのように、いつか中国人から笑いがとれるような人になりたい」と興奮した顔で話しました。

　矢野さんは2013年、ヨシモトブックスから自叙伝『大陸俳優 ～中国に愛された男～』を日本で出版。今回は中国で出版した最初の自伝でもあります。本の出版に際し、「矢野浩二という人間を理解してくれる人がさらに一人でも増えてくれればいいなと思うし、これまでの東京や北京で過ごしてきた23年は、ある意味、特別な体験をさせてもらったと思っている。その時、その時に感じた思いを書いた本なので、中国の学生たちにどんどん見てもらえたら」と思いを語ってくれました。

　間もなく幕開けとなる2016 年には、主演コメディ映画「恋愛教父」が1月15日に公開するほか、張作霖の日本人友人を演じるドラマ「少帥」も間もなく上海衛星テレビや北京衛星テレビで放送がスタートします。さらに、2015年年末にクランクインした時代物や、ジャッキー・チェンが演出する映画「鉄道飛虎」（Railroad Tigers）の出演予定もあり、矢野さんの出演が目白押しです。

　俳優矢野浩二さんにとって、新しい年も間違いなく大きく羽ばたく年になります。 （取材・記事：王小燕）