草原の子・ブレンバヤル（前篇）

　最近、中国文化界の著名人が相次いで亡くなっています。9月19日、蒙古族の有名な歌手・ブレンバヤルは急性心筋梗塞が原因で58歳という若さで息を引き取りました。私にとってブレンバヤルは素晴らしい蒙古族の歌手だっただけでなく、中国国際放送局のモンゴル語部のアナウンサーで、私たちの同僚でもありました。彼の突然の訃報の知らせを受け、多くの音楽ファンと同じように驚きと悲しみでいっぱいです。この番組を通じて、彼の安らかなご永眠をお祈りします。中国メロディーでは2回に分けて、ブレンバヤルの音楽人生をご紹介しましょう。

心温まる「吉祥三宝」

　中国でブレンバヤルといえば、多くの人は2006年のCCTVのお正月番組「春節の夕べ」の舞台で、蒙古族の親子が「吉祥三宝（吉祥三人家族）」を歌う心温まるシーンを思い浮かべるでしょう。当時、三人の蒙古族家族の歌声は言語と民族を越えて多くの観客の心を打ち、中国全土で大ヒットし、どこに行ってもこの三人の歌声が聞こえるほどでした。

　実はこの歌はブレンバヤルが娘・ノルマンのために作ったものです。当時、妻のウレナがいつも地方公演に出かけていたため、ブレンバヤルは一人で娘の面倒を見ていました。娘の成長に伴う幸せな時間は彼にインスピレーションを与え、いつしか、音楽で娘が成長することを記録したいと考えていました。そして、ブレンバヤルは娘の3歳の誕生日に「吉祥三宝（吉祥三人家族）」を作りました。彼は家族三人の家庭内対話のようなこの歌が、数えきれない人の心を温めることになるとは思いもよらなかったかもしれません。

諦めなかった音楽の夢

　ブレンバヤルは内蒙古自治区フルンボイル草原に生まれました。両親の影響を受けて、幼いころから音楽の才能を発揮し、様々な集まりやイベントで大人が歌うのを聞くとすぐに覚えることができるほどでした。音楽好きなブレンバヤルは音楽の道を志し、1980年、彼はフルンボイル芸術学校に入学して、声楽を専攻しました。また、ここでクラスメートとしてエブェンキ族のウレナと出会い、二人の恋も始まりました。しかし4年後、ウレナが北京の中央民族大学に進学することから、二人は離れ離れになってしまいます。その後6年間にわたって別々の土地に住んでいましたが、二人は仲睦まじく愛情を育みました。そして1990年、ブレンバヤルは妻のウレナがいる北京で働くことを決め、中国国際放送局モンゴル語部でアナウンサーになりました。

　しかし、ブレンバヤルは自分の音楽の夢をずっとあきらめることなく、仕事を続けながら様々な音楽コンクールに参加しました。草原の息吹に溢れる彼の歌声は人々に深い印象を残しました。著名なソプラノ歌手・デーデーマは「ブレンバヤルは心で歌う歌手だ。その重厚で透き通るような歌声は、観客たちに草原の広大さと魅力を感じさせることができる」と評価しました。

草原への深い愛情

　2006年、ブレンバヤルは春節の夕べの舞台で頭角を現した後、アルバム「天辺(天の果て)」と「杭盖（ハンガイ）」をリリースしました。彼の歌から故郷・フルンボイル草原への深い愛情を感じることができます。蒙古族音楽を深く愛していたブレンバヤルは多くの蒙古族の若手歌手をサポートし、若手歌手の成長の後ろ盾となりました。彼の家はいつまでも蒙古族歌手の拠り所となる港でした。

　ブレンバヤルの突然の訃報に、数えきれない人々が悲しみを感じています。彼は非常に優れた歌手で、その抑揚が美しい歌声は多くの観客を感動させました。また、彼は優しい夫でもあり、妻のウレナと助け合い、仲睦まじい夫婦でした。彼は立派な父であり、ずっと娘を温かく見守り、娘に沢山の愛情あふれる歌を作りました。彼は良き先輩で、多くの若手歌手を率いて、舞台で輝きを放ちました。そんなブレンバヤルの突然の訃報は、彼を愛する人々に限りない思いを残しています。

　番組の中でお送りした曲

　1曲目　吉祥三宝（吉祥三人家族）

　この歌はブレンバヤルのデビュー曲です。

　歌詞：

　女の子：パパ 星が出たら太陽はどこに行くの

　父：空にあるよ

　女の子：なぜ見つけられないの

　父：家に帰ったんだよ

　女の子・父・母：太陽 月 星は吉祥の家族

　2曲目　呼伦贝尔大草原（フルンボイル大草原）

　歌詞：

　私の心は天の果てにあり

　天の果ては限りない

　広大な草原は空と大地の間にある

　白いテントは川のほとりに広がっている

　フルンボイル大草原

　白い雲が私の心に漂う

　フルンボイル大草原

　私が愛し　懐かしく思う場所

　3曲目　牧歌（ぼっか）

　歌詞：

　真っ青な空に浮かぶ白い雲

　白い雲の下には雪のような羊の群れ

　羊の群れはまるで白銀のよう