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東洋の油絵の開花に期待を寄せて―アーティスト・江上越さんに聞く

2016-07-05 19:31:03     cri    

 聞き手:王小燕

 中国では、夏が卒業のシーズンです。今回はこの6月末、北京にある中央美術学院(CAFA)油画科を優秀な成績で卒業した日本人留学生、若手アーティストの江上越さんにお話を伺います。

 中央美術学院(CAFA)は中国を代表する美術大学で、選りすぐられた美大生向けに少数精鋭教育を行っている大学です。

 6月末、CAFA美術館で開催された学部卒業展。幅6メートル、高さ3メートルの壁に130枚の肖像画が並べられました。その一角の音声装置が設置された大型インスタレーションの作品の前で、多くの人が足止めしていました。聞こえてきた音声を復唱している子どももいれば、ヘッドフォンを耳にかけたまま、10分以上も聞き入っていた尼さんの姿も。

 

 優秀賞を受賞し、CAFA美術館に買い上げ収蔵されたこの作品は、江上越さんが制作したものです。タイトルは「サウンドウェーブとライトウェーブの間を行き来する(中国語タイトル:往返于声波和光波之间)」。コミュニケーションをモチーフにした作品です。これは、まだ中学生の妹を北京案内したときの体験が創作のきっかけだといいます。

 「店に入ると、店員さんが色々と中国語で聞いてきます。妹は『いやだ、いやだ』と言いました。それを聞いた店員さんは何と、アヒルの卵を持ってきました。『いやだ』の発音が中国語では『アヒルの卵』に聞こえてしまったのです。これが、何が本当のコミュニケーションなのかを考える上でのヒントになりました」

 この面白い体験から、音と形の内在関係のリサーチを始めました。数百人に参加してもらいランゲージ・コミュニケーション・ゲームを行い、その結果を絵画に描き、コミュニケーションを図ったのがこの作品だといいます。

 油絵を本格的に始めたのは高校時代、美術部に入ったことです。大学は美術大学に入り、油絵を専攻しようと決めました。しかし、目指した大学は日本ではなく、イタリアやフランスでもなく、北京にある中央美術学院でした。北京を選んだのは、自分の美術に対する広大な夢があるからと話してくれました。

 「東洋の社会で西洋をどのように受け入れてきたのか、これに大変興味があります。油絵は元々西洋に生まれたもので、東洋に伝わった時に、西洋の文明と文化も一緒に入ってきました。それに対して、東洋には自分の伝統もありますので、その中で様々な矛盾や問題点も起きていました。この点、日本の油絵と中国現代の油絵に共通点があると感じました。

 一方、美術史の中の一大事、イタリアで起きたルネサンスは、古代ギリシャの文化の復興を目指すものでしたが、結果的に古代ローマの文化を発展させました。それと同じように西洋で生まれた油絵も、東洋の国で花が咲くことも可能ではないか、東洋の油絵が確立できるんじゃないかなと思って、中国留学を決めました」

 大きな目を輝かせながら、真摯に語ってくれました。

 卒業した後も、北京に残り、CAFAの大学院への進学を決めました。北京と日本に拠点を置きながら制作活動に取り組んでいる江上さん。中国と日本の双方の美術畑からどのような養分を吸収し、これからどのように花を咲かせるのか、大いに期待されています。

 詳しくは番組をお聞きください。

 【プロフィール】

 江上越(Egami Etsu) さん

 アーティスト

 1994年、日本に生まれる。2012年、千葉県立千葉高校卒業後、北京にある中央美術学院油画科へ留学。2016年6月、卒業と同時に同大学院に進学。中国を代表する現代アーティスト・劉小東の門下生に。現在は、日本と北京を拠点に創作活動に取り組む。

 言語と形の内在関係やコミュニケーションの可能性をテーマにして創作されたインスタレーション、ビデオ、油絵を中央美術学院や中国全国規模の美術展、またはアメリカボストン美術館大学との共同展などに出展し、アメリカや韓国などを巡回。

 2016年6月、中央美術学院美術館での学部卒業展にて優秀賞を受賞、この作品は買い上げられ同美術館に収蔵。

 2012年から日本の美術誌『月刊美術』中国特派員として、コラム「中国美術界の仕掛け人」を連載。2015年から『美術手帖』の"bitecho"プロジェクトに参加。このほか、武漢に本部がある中国の美術誌『美术文献』の日本&北京特派員、ロンドンの美術誌「The Art News Paper」のアジア担当などメディアへの執筆も。

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